
会議室のガラス戸を閉めようとしたその瞬間、突然その社員は立ち上がり、こう叫びました。「私は会社を辞めます。原因はあの人です」——指をさされた先にいたのは、私でした。これは私が中小企業診断士になる前、23歳のときに経験した実話です。管理部改革のミッションで入った中小企業で、ある問題社員から「パワハラだ」と名指しされ、内容証明が届き、労基署にまで駆け込まれた——そんな珍事件の顛末と、そこから得た「経営者・管理職が知っておくべき教訓」をお伝えします。
この記事でわかること
- 何でも「パワハラ」と主張すれば通ってしまうわけではない、という現実
- 問題社員から根拠の乏しいパワハラを訴えられたとき、経営者・管理職が最初にすべきこと
- 内容証明や労基署対応が来ても慌てないための心構え
- 採用段階で見抜いておきたい「反抗的な人材」のサイン
- 会社として毅然とした態度を取ることが、なぜ社員自身を守ることにもつながるのか
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みなさんこんにちは!中小企業診断士の春原です!
中小企業の支援を行っていると
「え、こんなことあんの?」
という状況が多々あります。
今回はそんな中でも、屈指の強烈エピソードである「名指しパワハラ事件」をお話しします。
もちろん、実話ですよ!
管理部が死んでいた、ある中小企業の実態

私が中小企業診断士になる前、とある会社の管理部を再構築しようというミッションに従事していました。その企業の管理部は、部長1人(以下、M部長)・社員3人という体制で、経理や人事、受注受付、製造現場への指示など、事務系の仕事をすべて引き受けていた部署でした。
当然、会社の中では中核的な部署なのですが・・・、
- 試算表が半年に1回しか出てこない
- 給与計算や会計処理、請求書処理が担当者しかわからない「属人化」状態
- 業務フローが非効率で、ミスや遅延が常態化
という、もはや機能していない状況でした。経営環境も厳しく、じっくり時間をかけて信頼関係を築いてから改革に着手する、という余裕はありません。私は上司である中小企業診断士(以下、Kさん)とともに、管理部再構築のミッションを始動しました。
挨拶すらしない――強烈な反発の中で始まった改革

訪問初日、それはもう強烈な洗礼を浴びました。ちなみに、私の一番最初のクライアントが、この会社です。
- 挨拶をしない(しても無視される)
- 必要書類を見せない
- 普通に暴言を言われる(お前みたいな若造が、など)
そんな状態が続きました。
(もはやこの時点で、「こんな会社あんの?」という感じですが、私にとっても初めてのクライアントということもあって「こ、こんなものか・・・」とあんまり疑いなくすすめていました・・・)
特にM部長は、Kさんと真っ向から対立し、常に緊張感のあるやり取りが繰り返されていました。部下たちも、そんなM部長の姿を見て同じように反抗的な態度を強めていきます。
組織というのは、トップの姿勢がそのまま下に伝染するのだと、身をもって実感した出来事でした。
「あなたもこうなりたくないでしょ?」――ある一言が引き金に
そんな中、特に反抗的な態度を取り続ける社員(以下、Tさん)がいました。何度お願いしても必要書類を出してもらえず、痺れを切らした私はこう伝えました。
「いい加減に書類を出してください。M部長みたいになりたくないでしょ?」
Tさんは以前、「M部長とKさんが喧嘩みたいなやり取りをするのを見るのが気分悪い」とこぼしていました。
だからこそ私は、「Tさんも“渦中の人”になりたくないでしょう?」という意図で、あえてKさんの名前を出して協力を促すつもりでした。
しかし、このひとことが完全にまずかったようで・・・。
「あの人がいるので、辞めます」――役員会議直前の修羅場
数日後、月2回の役員会議の日がやってきました。いつも使っている事務所をガラス戸で仕切り、半分のスペースで会議をする決まりです。ガラス戸を閉めようとした、まさにその瞬間でした。
Tさんが突然立ち上がり、
「会議の前に言いたいことがあります!」
と大声で宣言。何ごとかとみんなが注目する中、こう続けました。
「私は会社を辞めます。原因はあの人です!!」
一瞬、何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。
しかし、「あの人です!」と刺されている指の先にいるのは自分。
言っていることもわからなければ状況も意味不明すぎてプチパニックです。

20分くらいでしょうか。Tさんは長々と話し始めました。
悪口を言われた、パワハラをされた、精神的に苦痛、夜も眠れない、などなど・・・。
あることないこと平気で嘘をついて、「貶めよう」とする意図が丸見えです。
当然、私も黙ってはいられません。相手がすべて言い終えた後、ひとつずつ反論。
主張が事実に基づかないということ、パワハラではないということ(むしろパワハラを受けたのはこっち)、むしろTさんの態度に大きな問題があるということ・・・。
結果、Tさんは半泣きで黙り込み、「もういいです!」と言い残して就業時間中にもかかわらず退社。そのまま本当に退職してしまいました。
余談:誰も助けないというのも問題
この会議のとき、私の上司であるKさんも隣に座っていました。当然、私だけでなく、Kさんも一緒に反論してくれました。
一方、その場にはM部長もいました。Tさんにとって、M部長は直属の上司です。しかし、驚くべきことにM部長は一切に何も話さないのです。Tさんのフォローに入るでもなく、一緒に反論してくるわけでもなく、ただただ無言。
明らかにおかしな主張ではあるものの、こういう時に助に入らないのはいかがなものか・・・。
それはそれで、何と悲しい気分になりました。
まだまだ終わらない!――内容証明&労基署
退職してから数日後、その社員から会社宛に内容証明が届き、さらに労働基準監督署からも電話がきました。
内容証明に記載されてあった主張は
- 我々と社長からの謝罪
- 我々とのコンサル契約解消
- 自己都合退職ではなく、会社都合退職への変更
一体どの立場で何がしたいんだ?????
という、まぁほぼいやがらせレベルの内容でした。
とはいえ、「内容証明」というなんかそれっぽい文章で来ると、結構ビビるものなんですよね。
はじめての内容証明にビビり散らかしている私を横目に、Kさんは爆笑。
「こんな無茶苦茶な主張が通るわけない」
と、見事にすべて切り返しました。
さらに、「パワハラにより精神的苦痛を受けた」ということで労基署に行ったようで、電話がかかってきましたが、噓偽りなく事実をすべて説明。
「それはー・・・、ひどいですね」
まさか労基署の人からこんな言葉が出てくるとは思いませんでしたが、
これをもって、無事何事もなくこの騒動が終了しました。
中小企業の経営者・管理職が学んでおきたい3つの教訓
① 「パワハラだ」という主張だけで、すべてが決まるわけではない
ここ数年、「パワハラ」という言葉の重みが増しています。当然、企業側に落ち度がある場合もありますが、なんでもかんでも「パワハラ」になるわけではありません。今回のTさんのケースでもあるように、めちゃくちゃな主張をしてくる場合も往々にしてあります。そうなった際、「これは絶対にパワハラにならない」と言い切れるかどうか、これは大変重要だと思いました。
ちなみに、パワハラについては別記事で紹介していますので、参考にしてみてください。
② 採用段階で「まずい人材」を見抜く
今回の出来事は、会社としての雰囲気に大きな問題があったことは言うまでもありません。反抗的な態度は、M部長の態度を見ての結果という部分は大いにあります。
ただし、Tさん自身にも問題があったのも事実です。いくら会社の雰囲気が「アンチコンサル」だからといって、挨拶を無視したり、すべてに協力しないなどはあり得えません。既にそういった素地があったのは間違いないので、このような人材は採用段階で見抜くべきだったのです。
③ 会社としての毅然な態度がとても重要
中小企業の場合、各従業員の持っている業務が会社運営において重要な役割を担っていることが多いです。そのため、いつの間にやら会社と従業員のパワーバランスが逆転していることがあります。今回の会社はまさにその典型で、これまでも従業員からの無茶な要求があったようですが、受け入れざるを得ないようなことがよくあったそうです。
会社としての毅然な態度は、他の従業員もよく見ています。必要な場面では「それは認められません」と伝える。こうした毅然とした姿勢が、結果として組織全体の健全性を守ることにつながります。
おわりに
今回の「名指しパワハラ事件」、いかがでしたでしょうか。
正直、当時は「こんなことが本当にあるのか」と面食らうことばかりでした。挨拶すら返ってこない現場、いきなり自分が「加害者」に仕立て上げられる修羅場、そして内容証明や労基署からの電話・・・。中小企業診断士になりたての私にとっては、まさに洗礼のような経験でした。
ただ、今振り返ってみると、この一件は「組織の空気は必ず伝染する」「毅然とした態度がなければ足元を見られる」という、支援先企業と向き合ううえで欠かせない教訓を教えてくれた出来事でもあります。
中小企業の現場では、こうした「想定外」が本当によく起こります。だからこそ、経営者や管理職の皆さんには、日頃から「うちは大丈夫」と過信せず、組織の雰囲気や採用のあり方、いざという時の対応方針を見直しておいていただきたいと思います。
今後もこうした現場のリアルなエピソードを通じて、少しでも中小企業の皆さんのお役に立てる情報をお届けしていきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!