
中小企業にとって、採用の失敗は経営に直結する重大なリスクです。日本の労働法では、一度採用した従業員を会社の都合だけで辞めさせることは事実上できません。だからこそ、採用のミスマッチは「入社後に何とかする」のではなく「入社前に見抜く」ことが何よりも重要です。本記事では、中小企業診断士の立場から、なぜ「採用してから修正する」という発想が通用しないのかを整理したうえで、応募書類や面接の場で意識すべき3つの見極めポイントと、実際に使える質問例を解説します。
この記事でわかること
- 会社側の都合だけでは従業員を辞めさせられない、という法律上の前提
- 早期離職であっても会社に一定のダメージが残る理由
- 採用時に「能力」より「人間性」を重視すべき理由
- 前職調査(リファレンスチェック)を行う際の考え方と注意点
- 職務履歴(職歴の数)から読み取れるリスクサイン
- 面接官の「なんとなくの違和感」を活かすコツと、その限界
- 面接で実際に使える質問例と、入社後のフォロー体制の考え方
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みなさんこんにちは。中小企業診断士の春原です。
今回は「採用」についてのお話です。今の中小企業にとって、採用の難易度はかなり高く、日々採用活動に頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。
慢性的な人手不足の中で、そもそも募集をしても応募が来ないため、面接に来ただけで「ぜひ採りたい!」という気持ちが前面に出てしまうこともよく見かけます。
ただ、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。その人、本当に採用して大丈夫ですか?
人を辞めさせることはできない
まず重要な前提として、会社は人を辞めさせることができません。経営サイドからすると、労働者は過剰とも思えるほど、法律によって守られています。
もちろん、適切な手続きを踏めば不可能ではありません。ただ、その難易度や手間、そして失敗したときのリスクを踏まえると、「できない」と考えておいた方が現実的です。
実際、私自身も何度もそうした場面に関わってきましたが、難易度はかなり高いです。結局のところ、自己都合退職に持っていくのが一番安全なルートではあるのですが、そこに至るまでの労力は相当なものです。一歩間違えれば、労働基準監督署が動くこともありますし、裁判に発展することもあります。
このように、一度採用した人を辞めさせるのは、もはや不可能に近いと言わざるを得ません。だからこそ、「採用してから見極める」のではなく、「採用する前に見極める」という発想への転換が不可欠です。
辞めるから良いというわけでもない
では、早期に辞めてくれるなら良いかというと、当然そういうわけでもありません。入社に関わる諸手続きや、社会保険料の会社負担分など、一人採用するだけでも会社へのインパクトはそれなりに大きいものです。
また、金銭的な影響だけでなく、周囲への影響も考える必要があります。早期離職はそもそも印象が良くありませんし、周囲に良くない話を吹き込んで辞めていく可能性も否定できません。中小企業では従業員同士の距離が近い分、一人の早期離職が職場全体の士気やチームワークに与える影響も、大企業に比べて大きく出やすい傾向があります。
つまり、「採用してすぐ辞めるなら被害は小さい」というのは誤解であり、採用ミスマッチはどのタイミングで発覚しても、会社に何らかのダメージを残すと考えておくべきです。
明日からできる!採用時にすべきこと
人を辞めさせられない以上、採用の段階でしっかりフィルターをかけるしかありません。では、どのようなフィルターを設ければよいのでしょうか。ここでは、応募書類や面接で意識すべき3つのポイントを紹介します。
①能力ではなく、人間性を重視する
「中途採用である以上、即戦力が欲しい」——
その気持ち、よくわかります。しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。能力が高く、バリバリ仕事を取ってくるような人材は、そもそも大手企業やベンチャー企業に流れていきます。つまり、そういった人材は、一般的に中小企業にはなかなか来ません。
そして何より、能力はなんとかなりますが、人間性はどうにもなりません。人間性というのは抽象的な表現ではありますが、「素直である」「前向きである」「自己中心的でない」といった、ごく当たり前のことです。
人間性に問題がある人は、どれだけ教育をしても、能力は伸びにくいのです。
人間性を見極めるための視点
人間性は、経歴書だけでは判断できません。面接の中で、次のような点を意識して観察してみてください。
- 自分の失敗やミスについて、他責にせず具体的に話せるか
- 前職の上司や会社について、感情的に長々と悪口を話していないか
- こちらの指摘や質問に対して、素直に受け止める姿勢が見られるか
特に、前職の悪口を話す応募者すべてが問題というわけではありません。事実を淡々と説明できるか、それとも感情的に一方的な語り口になっているかで、印象は大きく変わります。冷静に事実を説明できる人は、むしろ誠実に状況を伝えようとしているケースもあるため、話し方全体から見極めることが大切です。
②前職調査(リファレンスチェック)の許可を取る
前職調査をしてよいかと許可を取ったとき、淀みなく「はい」と答える人は、かなり信頼できます。逆に、何か聞かれると困ることがある人は、この質問に対して「No」と答えるか、あきらかに動揺します。
可能であれば、実際に前職調査を行うことをおすすめします。近年は「リファレンスチェック」「バックグラウンドチェック」と呼ばれる、前職の関係者への確認を代行するサービスも増えており、社内で対応しきれない場合はこうした外部サービスを活用する選択肢もあります。何らかのトラブルを起こして辞めている場合、自社でも同様のことが起こる可能性は否定できないため、採用は慎重に判断すべきでしょう。
ただし、長時間労働や社内いじめ、パワハラなど、会社側に問題があったケースも当然あり得ます。その場合、前職の会社から正確な回答が得られないこともあります。前職を辞めた理由は本人にも確認すると思いますが、そこで会社側に問題があったような内容が出てきた場合は、注意して見極めなければなりません。
③職務履歴が大量の人は慎重に
職務履歴が多いというと、一見、経験が豊富なようにも見えます。しかし実際には、単に短期離職を繰り返しているケースの方が多いです。
これまで、10社以上を経験しているという方を数多く見てきましたが、正直なところ、あまり良い印象は持てません。あくまで主観にはなりますが、短期離職を繰り返すのには、それなりの理由があるものです。
短期離職がすべてNGというわけではない
とはいえ、短期離職の経歴がある応募者を一律に不採用とすべき、というわけでもありません。家族の介護や本人の体調不良など、一時的でやむを得ない事情によって離職を繰り返しているケースもあります。このような場合は、当時の事情を具体的に説明できるか、そして同じ事態が再発しないための対策を本人がきちんと語れるかどうかを、面接で確認するとよいでしょう。事情の有無だけでなく、「同じことを繰り返さないための再現性」まで踏み込んで質問することが、見極めの精度を高めるポイントです。
「なんとなくの違和感」は意外と重要
話し方、雰囲気、見た目、コミュニケーションの仕方……「なんかこの人、違うんだよな」と感じる感覚、ありませんか?
この、言葉にならない「なんとなくの違和感」は、決してバカにできません。特に経営者は、これまで良い人も悪い人も、数多くの人と会ってきているはずです。だからこそ、この「なんか合わない」という感覚は、意外と当たるものです。
逆に、「なんとなく良い」という感覚は、あまり過信しない方が良いでしょう。というのも、「人が足りない、誰か欲しい」という、すでに採用したいというバイアスがかかった状態での感覚だからです。あくまでも、「合わない人を見分けるための感覚」として活用することをおすすめします。
面接で使える質問例
ここまでお伝えしたポイントを、実際の面接でどう質問に落とし込めばよいか、具体例を挙げておきます。自社の状況に合わせてアレンジしてご活用ください。
- 「これまでの仕事で、大きな失敗をした経験を教えてください。そのとき、ご自身はどう対応しましたか?」(他責傾向の有無を確認)
- 「前職を辞めた理由を教えてください。当社から前職に確認の連絡を入れさせていただくことは可能ですか?」(前職調査への許可と、動揺の有無を確認)
- 「これまでの転職の中で、短期間で退職された時期があれば、その理由を教えてください」(職務履歴の背景と再現性を確認)
- 「入社後、もし業務のやり方について指摘を受けたら、どのように受け止めますか?」(素直さ・柔軟性を確認)
質問はあくまで「話してもらうきっかけ」であり、回答の内容そのものよりも、話す際の姿勢や一貫性、こちらの質問に正面から向き合っているかどうかを観察することが大切です。
よくある質問
Q. 面接で前職の悪口を言う人は、それだけで不採用にすべきですか?
一律に不採用とする必要はありません。ただし、感情的に長々と話す場合や、責任を一方的に前職や他人に押し付けるような話し方をする場合は注意が必要です。逆に、事実を冷静に説明できる人は、誠実に状況を伝えようとしているケースもあります。話の内容だけでなく、話し方全体から判断することをおすすめします。
Q. 学歴や資格が高すぎる応募者は、採用を避けたほうがよいですか?
「こんな経歴なのになぜうちに?」となる気持ち、よくわかります。しかし、学歴や資格の高さそのものが問題になるわけではありません。重要なのは、「なぜ自社を選んだのか」を具体的に語れるかどうかです。志望動機が曖昧な場合は、入社後のミスマッチにつながりやすいため、動機の明確さを重点的に確認しましょう。
Q. 短期離職を繰り返している人は、絶対に採用しないほうがよいですか?
必ずしもそうとは限りません。家族の介護や体調不良など、一時的でやむを得ない事情がある場合は、その内容を具体的に説明でき、再発防止策を本人が語れるのであれば、採用を検討する余地はあります。事情の有無だけでなく、同じことを繰り返さないための対策まで確認することが重要です。
Q. 前職調査(リファレンスチェック)は自社で行う必要がありますか?
必ずしも自社で行う必要はありません。近年は前職への確認を代行してくれる外部サービスもあるため、社内のリソースが限られている場合は、そうしたサービスの活用を検討するのも一つの方法です。
入社後のフォローも忘れずに
どれだけ丁寧に見極めても、採用のミスマッチを完全にゼロにすることはできません。だからこそ、入社後のフォロー体制もあわせて準備しておくことをおすすめします。
例えば、入社後1か月・3か月といった節目のタイミングで、1対1の面談を実施し、業務内容や人間関係について不安がないか、入社前とのギャップがないかを確認する仕組みを作っておくと、問題の早期発見につながります。採用は「見極めて終わり」ではなく、「入社後も継続的に様子を見る」ところまでがセットだと捉えておくとよいでしょう。
おわりに
以上が、採用時に注意すべきこと3つでした。
中小企業にとって、従業員1人の力は絶大です。それは良い方向にも効果を発揮しますが、当然悪い方向にも転びます。
「ひとまず人が欲しい」という気持ちはわかりますが、採用を誤ると会社に大きなダメージが入ります。だからこそ、採用を行う際は慎重に行うべきなのです。もし自社の採用フローや面接の進め方に不安がある場合は、お気軽にご相談ください。