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人事・労務

残業代は基本給だけで計算していませんか?中小企業が知っておくべき「割増賃金の算定基礎」【後編】

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「残業代を減らすために、基本給ではなく手当をつけている」——中小企業の経営者から、こうした本音を伺うことは少なくありません。しかし、この考え方には大きな誤解が潜んでいます。割増賃金(残業代)の計算対象は基本給ではなく「所定内給与」であり、そこから除外できる手当は法律上7つに限定されています。前編でお伝えした「最低賃金の判定」とは除外される手当の範囲が異なるため、混同すると思わぬ形で法律違反になってしまうことがあります。後編では、この「割増賃金の基礎となる賃金」のルールと、前編との違いについて、中小企業診断士の立場から丁寧に解説します。

この記事でわかること

  • 割増賃金(残業代)の計算対象は基本給ではなく「所定内給与」であること
  • 割増賃金の算定基礎から除外できる7つの手当と、その限定列挙という性質
  • 「最低賃金の判定」と「割増賃金の算定基礎」で除外される手当の範囲の違い
  • 精皆勤手当の扱いが最低賃金の判定と割増賃金の算定基礎で異なる理由
  • 諸手当を柔軟に設計する際に、就業規則の整備が欠かせない理由
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前回に引き続き、「賃金」の基本構造についての解説、後編です。

前編では、賃金は「所定内給与」と「所定外給与」に分かれること、そして最低賃金は原則として所定内給与で判定されること、その所定内給与の中でも精皆勤手当・通勤手当・家族手当の3つは最低賃金の判定からは除外されることをお話ししました。

今回は、視点を変えて「残業代(割増賃金)」の計算について解説していきます。実は、最低賃金の判定と残業代の計算とでは、除外される手当の範囲が異なります。この違いを知らずに給与計算をしていると、思わぬ形で法律違反になってしまうことがあるため、後編では特にこの点を丁寧に見ていきます。

経営者が抱えがちな本音:固定残業代はできれば減らしたい

私は中小企業診断士として給与相談を受けていますが、経営者の本音として、「残業代は、できるだけ抑えたい」という思いを感じることが少なくありません。人件費の中でも、残業代は業績や労働時間によって変動する部分が大きく、負担として重く感じられやすいのだと思います。

以前、ある経営者の方とお話ししていたときに、こんな一言がありました。

「残業代を減らすために、基本給ではなく手当をつけているんですよ」

さらっとした会話の中の一言でしたが、これは給与計算において非常によくある誤解を象徴する発言でした。

よくある勘違い:「残業代は基本給がベース」という思い込み

なぜ、このような発想に至るのでしょうか。

その背景には、「残業代は基本給をベースに計算するものだ」という思い込みがあるように思います。実際、多くの会社では賞与の算定を基本給ベースで行っているため、その感覚がそのまま残業代の計算にも当てはめられてしまうのです。

この思い込みがあると、「基本給さえ上げなければ、残業代の計算に影響しないはずだ」という発想が生まれます。そして、基本給の代わりに諸手当を増やすことで、実質的な給与水準は上げつつ、残業代の負担は抑えられるのではないか、と考えてしまうわけです。

しかし、結論から言うと、この考え方は誤りです。残業代の計算対象は、基本給ではありません。

「割増賃金の基礎となる賃金」とは

残業代(割増賃金)は、「1時間あたりの賃金額」に、割増率と残業時間数をかけて算出します。このときの「1時間あたりの賃金額」を計算するための元になる賃金のことを、「割増賃金の基礎となる賃金」と呼びます。

改めて、前編でお示しした賃金の全体構造を振り返っておきます。

賃金は「定期給与」と「臨時の給与」があり、そのうち「定期給与」は「所定内給与」と「所定外給与」に分かれます。割増賃金の算定基礎も、この「所定内給与」が出発点です。つまり、割増賃金の計算対象は「基本給」ではなく「所定内給与」全体であるというのが、まず押さえておくべき前提です。

ただし、所定内給与のすべてがそのまま算定基礎になるわけではなく、その中から特定の手当が除外される仕組みになっています。前編で扱った「最低賃金の判定」も、同じく所定内給与を出発点としていましたが、そこから除外される手当の範囲が異なる、という違いがあります。

では、所定内給与のうち、割増賃金の算定基礎から除外される手当とは、具体的に何でしょうか。次に見ていきましょう。

算定基礎から除外される5つの手当

所定内給与のうち、割増賃金の基礎となる賃金からは、次の7つの手当・賃金が除外されます。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当

このうち、はじめの5つ(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当)は労働基準法および労働基準法施行規則に個別の手当として列挙されているものです。

厚生労働省から出ている例示では、限定的に列挙された「賃金」は、5つではなく7つとなっています。残りの2つは、「臨時に支払われた賃金」と「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」です。ただし、これらは「定期給与」から外れていますので、そもそも今回の話では対象になりません。

「名称」ではなく「実態」で判断される点にも注意

ここで、必ず押さえていただきたいポイントがあります。それは、この5つは「例示」ではなく、労働基準法および関連する通達で限定的に列挙された手当だということです。

つまり、「うちの会社ではこの手当も実質的に家族手当みたいなものだから除外していいだろう」といった、名称や実態に基づく独自判断で除外対象を追加することはできません。

逆に、この5つ以外の手当(役職手当、資格手当、皆勤手当など)は、名称にかかわらず、原則としてすべて割増賃金の算定基礎に含める必要があります。

先ほどの「基本給の代わりに手当を増やせば、残業代を抑えられるのではないか」という発想に戻ってみましょう。もし新設した手当が、この5つのいずれにも該当しないのであれば、その手当は結局、割増賃金の算定基礎にそのまま含まれてしまいます。つまり、基本給から手当に置き換えただけでは、残業代の計算結果は変わらないのです。手当の名称だけで判断せず、その手当がこの5つのいずれかに該当するかどうかを、一つひとつ確認することが重要です。

最低賃金の判定との違いに注意

ここまでの内容を、前編でお話しした最低賃金の判定と比較しながら整理しておきます。

前編でお伝えした通り、最低賃金の判定においては、所定内給与のうち次の3つの手当が除外されます。

  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当

一方、今回の割増賃金の算定基礎から除外されるのは、次の5つの手当・賃金でした。

  • 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当

この2つを見比べると、興味深い違いがあることに気づきます。

通勤手当・家族手当は、最低賃金の判定でも、割増賃金の算定基礎でも、どちらからも除外されます。

一方で、精皆勤手当は少し扱いが異なります。精皆勤手当は、最低賃金の判定からは除外されるものの、割増賃金の算定基礎に関する7つの手当には含まれていません。つまり、割増賃金を計算する際には、精皆勤手当を算定基礎に含める必要があるということです。

「最低賃金の計算では除いていたから、残業代の計算でも同じように除いてしまった」という誤りは、実務で意外とよく見かけます。手当の種類ごとに、「今、何を計算しようとしているのか」を意識して整理することが大切です。

諸手当の扱い比較表

同じ「諸手当」という言葉であっても、「何を計算するための諸手当なのか」によって扱いが変わってきます。前編・後編の内容を一覧で整理すると、次のようになります。

手当の種類

最低賃金の判定

割増賃金の算定基礎

精皆勤手当

除外(含めない)

含める

通勤手当

除外(含めない)

除外(含めない)

家族手当

除外(含めない)

除外(含めない)

別居手当

含める

除外(含めない)

子女教育手当

含める

除外(含めない)

住宅手当

含める

除外(含めない)

役職手当・資格手当など

含める

含める

固定残業代(所定外給与)

対象外(そもそも所定内給与ではない)

─(割増賃金の計算結果そのもの)

このように、「最低賃金の判定」と「割増賃金の算定基礎」は、どちらも所定内給与を出発点にしながらも、除外される手当の範囲がまったく異なります。この違いを正確に押さえておくことが、給与計算のミスを防ぐ第一歩です。

基本給は削れないが、諸手当は削れる

前編・後編を通じてお伝えしてきた通り、諸手当は基本給と異なり、最低賃金の判定や割増賃金の算定基礎において、それぞれ独自のルールで扱われます。

このルールを裏から見ると、一つの実務上の考え方が浮かび上がってきます。それは、基本給は簡単に引き下げることができない一方で、諸手当は制度設計によって柔軟に増減させやすいということです。

理屈のうえでは、基本給を最低賃金相当の水準にとどめ、諸手当を上乗せする形で給与を構成すれば、諸手当の部分を成果や状況に応じて変動させる設計も可能になります。

就業規則の整備が前提になる

ただし、ここは非常に重要な注意点があります。このような設計を実際に行う場合、事前に就業規則へその旨を明記しておくこと、そして手当を減額・不支給とする場合には、客観的な根拠(成績不良の具体的な事実など)が必要になるという点です。

就業規則に定めがないまま、あるいは根拠が曖昧なまま諸手当を減額・不支給にしてしまうと、労働条件の不利益変更や、不当な賃金カットとして、トラブルに発展するおそれがあります。諸手当の柔軟性は、あくまで適切なルール整備とセットで成り立つものだと理解しておいてください。

よくある質問

Q. 固定残業代を導入すれば、割増賃金の計算をしなくてよくなりますか?

いいえ。固定残業代はあらかじめ見込んだ残業時間分の対価であり、実際の残業時間が見込みを超えた場合は、その差額を別途支払う必要があります。固定残業代を導入しても、割増賃金の基礎となる賃金の考え方自体が不要になるわけではありません。

Q. 役職手当や資格手当を新設すれば、残業代を抑えられますか?

抑えられません。役職手当や資格手当は、割増賃金の算定基礎から除外できる7つの手当には含まれていないため、原則としてそのまま算定基礎に含める必要があります。基本給から名称を変えただけでは、残業代の計算結果は変わりません。

Q. 精皆勤手当は残業代の計算に含めなくてよいのでしょうか?

含める必要があります。精皆勤手当は最低賃金の判定からは除外されますが、割増賃金の算定基礎から除外される7つの手当には含まれていないため、残業代の計算では算入対象になります。この点は特に混同しやすいポイントです。

後編のまとめ:結局、「残業代逃れ」はできない

冒頭でご紹介した「残業代を減らすために、基本給ではなく手当をつけている」という発想は、残念ながら成立しません。

割増賃金の算定基礎から除外できる手当は、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つに限定されています。この7つ以外の手当をどれだけ増やしても、それらは結局、算定基礎に含まれてしまいます。

基本給を上げたくない、という経営判断そのものは、決して間違ったものではありません。しかし、それによって残業代の負担そのものを回避しようとするのは、そもそも制度上できない相談なのです。

最後に、前編・後編を通じてお伝えしてきた内容を整理します。

  • 賃金は「所定内給与」と「所定外給与」に分かれる(前編)
  • 最低賃金は所定内給与で判定し、精皆勤手当・通勤手当・家族手当は判定から除外される(前編)
  • 固定残業代は所定外給与であり、最低賃金の判定に含めてはいけない(前編)
  • 割増賃金(残業代)の計算対象は基本給ではなく所定内給与であり、そこから除外できる手当は7つに限定される。これは限定列挙であり、例示ではない
  • 精皆勤手当は、最低賃金の判定からは除外されるが、割増賃金の算定基礎には含める必要がある
  • 諸手当は制度設計次第で柔軟性を持たせられるが、就業規則への明記と客観的根拠が前提になる

「賃金」という一つの言葉の中に、これだけ多くのルールが詰まっています。今回の内容をきっかけに、一度ご自身の会社の給与規程を見直してみてはいかがでしょうか。もし不安な点があれば、お気軽にご相談ください。

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